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「どうせ僕なんか…」恋愛格差にもがく男性
「どうせ僕なんか…」恋愛格差にもがく男性
亀山 早苗(2008-06-27 12:35)
「格差社会」が叫ばれて久しい。
「恋愛も同じです。セックスだってそう。恵まれないヤツはどこまでいっても恵まれない。やり直しがきかない社会なんですよ」
吐き捨てるようにそう言うのは、丈裕さん(33歳・仮名)だ。
「いつでも心が晴れない。むしゃくしゃしている。平気な顔して会社には行っているけど、無差別殺人の事件を見聞きすると、ああ、自分がやったんじゃないんだな、だけど自分でも不思議じゃないなという気持ちになったりするんです」
そこまで言うと、少しだけ肩の荷を下ろしたかのように、彼は弱々しい笑顔を見せた。
二浪して入った私立大学を卒業後、8年の間に3回も転職した。今は社員4人のIT関係の会社で働いているが、もともとITに興味があったわけでもなく、詳しいわけでもない。社員数の少なさから、人間関係も閉そく感が漂っている。
「彼女いない歴は年齢と同じ年数。学生時代に好きになった子がいたんですが、それとなく告白したら、『あなたなんかが私とつきあえると思ってるの』と冗談交じりに笑われました」
丈裕さんは、男性にしては小柄で華奢(きゃしゃ)だ。スポーツをしたこともないし、興味もない。いまだに野球のルールがよくわからないらしい。
もうじき還暦を迎える父親は国立大学出身で、有名な大企業の役員。子どものころから父親は怖かったが、逆らうことはできなかった。
「小さいころから家庭教師をつけてくれたり、週末は勉強を見てくれたりした。美術館や博物館にもよく連れて行ってもらいましたね。たぶん、愛されてはいたんでしょう。ただ、それは僕の望む愛し方ではなかった。漫画もゲームも禁止されていたし、心の中で反発したこともあります。だけど僕は、表立って父親に逆らうことはできなかった。気が弱かったのか、心のどこかで望んではいないけど愛情は感じていたのか。反発しきれなかった分、もやもや感は常にありましたけどね」
ずっと抑えつけられて育ってきたから、女性に対しても自分をアピールすることができない、と彼は言う。学生時代の淡い失恋も、ずっと傷として残っている。
「女性に興味がないわけじゃない。だけど、どうせ自分なんか好かれないだろうということもわかっている。外見も男らしくないし、収入も低い。女性が喜ぶような話もできない。もしセックスするような関係になっても、実際のところどうやったらいいかわからない。ないない尽くしですからね」
自嘲(じちょう)的な笑みを浮かべ、彼は友人の話をしはじめた。
「学生時代の友だちで、次から次へと彼女ができるヤツがいるんですよ。彼を見ていると、一極集中というか、モテるヤツはモテ続けて、モテない男は一生浮かび上がれないんだろうなあと思う。彼だって特に高収入というわけじゃないんだけど……。彼と僕と、それほど違うのかよ、と、ときどき心の中でつぶやいています」
女性と出会いたいという欲求はあるが、「どうしても」という気持ちにはなれない。その先、もし進展したら、さらに傷つくことがわかっているからだと丈裕さんは断言する。
心許せる女性と出会えたら、その考えは変わるかもしれないと言ってみても、
「今さらどうにもならない。人は生きていれば希望があるなんて言うけど、チャンスなんて特別な人間にしか訪れないんですよ」
とかたくなに言い張る。
「サービス残業をこなして、帰りに安い居酒屋で一杯やるだけの毎日なんです。たまに学生時代の友だちと飲んで遅くなったりすると、何も知らない父親は『お、デートだったのか。お前もそろそろ結婚したらどうだ』なんてノーテンキに言うんですよ。結婚できる年収かどうか考えればわかるはずなのに。母は母で、『親せきのおばさんにお見合いでも頼んでみる?』と。これもこれでうざったい。ただ、親が心配してくれているのはわかっているから、邪険にできないし」
心根が優しいから、自分を貫き通せない。いや、あるいは自分の意志を持つ前に、周りを慮(おもんぱか)りすぎて疲れ、身動きがとれなくなってしまうのかもしれない。
「仕事も恋愛も、このままでいいとは思ってないのだけれど」
最後のつぶやきが、丈裕さんの「持って行き場のない悲哀」を感じさせた。
[かめやま・さなえ] 1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーランスのライターとして活動をはじめ、愛と性にまつわる人間の根源を追究している。主な著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』(WAVE出版)や『なぜ、この人でなければならないか』(WAVE出版)、『性を追う女たち愛と快感』(講談社)、『マリッジ・セックス』(新潮社)、近著に『妻と恋人 おぼれる男たちの物語』(中央公論新社)などがある。東京消防庁に密着したノンフィクション『救う男たち』もWAVE出版のウェブサイト内で好評連載中。
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