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笑いすぎの日本人、笑わなすぎのニューヨーカー
笑いすぎの日本人、笑わなすぎのニューヨーカー
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080704/27022?cd
笑いがニッポンを救う
日本人はアメリカ人に比べれば笑顔をよく見せる。ニューヨーカーは不必要に笑わない。松坂大輔投手がボストン・レッドソックス入団時、大輪のひまわりのような笑顔を見せていたが、愛想笑いをしないほかの大リーガーとは不釣り合いだった。
アメリカのサービス業に従事する人々もあまり笑わない。それに慣れてしまうと笑顔が不自然に見えるようになる。ニューヨークのタイ料理店に入った時にはさすが「ほほ笑みの国」と言われるだけあって、そこのウエートレスは終始笑顔を絶やさなかった。その時も私は痛ましいような、奇妙な印象を受けた。笑わない国民の中であまりに笑いすぎるとかえって奇異に映るのだ。いい、悪いの問題ではないが、日本人は笑いすぎ、ニューヨーカーは笑わなさすぎだと個人的には思う。
ハーレムを歩いている人々にも笑顔はなかった。一様に表情が暗い。撮影するなら1ドルくれと言ったアフリカ人女性たち。何ドルかくれとせがんだ黒人の険しい顔。写真を撮らないでくれとぴしゃりと言ったアポロ劇場の女性警備員。
皆、日々のサバイバルに懸命で笑顔を見せる余裕などないのかもしれない。ハーレムの観光スポットにもなっているスタジオ・ミュージアムでよく笑う若い黒人従業員に出会った時には珍しくてしげしげと見入ってしまったほどだった。音楽の話だったと思うが、話しかけると体を折り曲げてクックッとさもおかしそうに笑うのがキュートだった。地方から出て来たばかりなのだろうか。そのうちハーレムに慣れて彼も笑わなくなるのだろう。
ロナルドという中年男性も最初に会った時には笑顔を見せなかった。かといってアンフレンドリーというのでもない。7番街の角でハーレムのCDストアの宣伝ちらしを配っていた。見ると日本では入手困難な黒人エンターテイナーのDVDがズラリと並んでいる。
ちょっと立ち話のつもりが、次から次と話題が尽きず、かなり長く話し込んだ。いつもアポロ劇場の前にいるからというのでそれを心にとどめてアポロ劇場前を通る時には気を付けていたのだが、その後しばらく会うことはなかった。
「ショータイム・アト・アポロ」というアマチュア・ナイトのTV収録が無料で見られると言うのでその日、私は黒人に混じって長い長い行列に並んでいた。何しろウーピー・ゴールドバーグが司会をするのだから見逃す手はない。
路上販売が盛んなハーレムのこと。125丁目に面したアポロ劇場の横から126丁目に向かって長く伸びる行列目当てに物売りが次から次とやって来た。派手なアクセサリー売りもいれば新人歌手の宣伝ちらしを配る者もいて、にぎやかなことこの上ない。
その中で、7歳ぐらいの黒人の男の子が、おそらく1個50セントぐらいで手に入るキャンデーを1ドルで売り歩いていた。高いことを承知で買う大人がいるのは相手が子供だからだろう。そこにロナルドを見つけた。マジック・ジョンソン・シアターで行われるコメディーショーのちらしを配っていたのだ。私は笑顔を見せたと思うが、彼の顔には微笑は浮かばなかった。「あら、また会ったわね」とそこでも少し話し込んだ。
3度目の正直か、そのコメディーショーの会場内でまたバッタリ会った。よほど縁があったのだろう。ショーがはねた後、「ショーマンズ」というクラブに行きたかったのだが、暗い夜のハーレムを1人でウロウロ歩きたくなかったので一緒に行かないかと誘ってみた。そうしたら「いいよ」と2つ返事でOKしたので、この有名なクラブでタップダンスとジャズを楽しむことができたのだった。
彼はこの時のお礼だと言って後日映画に誘ってくれた。そしてタイムズ・スクエアの映画館で「ザ・デパーテッド」を一緒に見た。映画が終わり、6 番街をぶらぶら歩くとストリートフェアに出くわした。安物のおみやげ品を見て歩いたり、写真を撮ったりしていると日が暮れかかって来た。
「またね(See you later.)」とクイーンズに帰る間際に言うと、思いがけず、彼はそれまで見せたことのない笑顔を見せてくれたのだ。
泣きたくなるような素晴らしい笑顔だった。
【記者注】SANKEI EXPRESSに1年間連載した「素顔のハーレム」が書籍化されます。割引予約も受付中です。
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